最後の一本を吸い終わったらスーツに着替え、
あっさり手首でも切って死のうと男は決めていた。
仕事を失い、妻と子供も失った。
シャツとスーツを枕元に置き、ベッドの端に腰かけた。
これまでの人生をゆっくりと思い出してみる。ゆっくりと走馬灯を見ているような気分だった。
ポケットを探り、マッチを擦る。
その瞬間窓ガラスが大きな音を立てて割れた。
それからのことはあまり記憶にない。
見知らぬ男に突き飛ばされ、気付いた時にはスーツと最後の煙草はなくなっていた。
わけがわからないと思ったが、自分が取るべき行動はすぐにわかった。
通報することなど思いつきもしなかった。
全てを失ったのだ、死ぬきっかけだけは失うわけにはいかない。
深呼吸をし、男は走った。
(つづく予定)
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