高校2年の冬。
体育でやった柔道で投げられて頭を打ち、僕は軽い脳震盪を起こした。
念のためにと行った病院で診てくれた初老の医者は、
川端康成のようないかにも鋭く、冗談のひとつも言いそうにないタイプだった。
いくつかの検査をして、結果は問題なし。
念のためとはいえ少しドキドキしていた僕は、結果を聞いて安心したのか
医者に軽口を叩いた。
「頭打っちゃったから、もう東大いけなくなっちゃいまいたよー。へへへ」
「・・・・・」
医者はカルテを書いていて、なにも答えない。
「・・・・・」
しまった、怒らせたか。
続く沈黙。
耐えられず、さっきの言葉はもうなかったことにしようと思ったそのとき、
医者はカルテから目を離し、僕を見つめて言った。
「まあ、東大がダメでも京大があるから」
やられた。
医者にやられた。
医者の沈黙にやられた。
いわゆる「間」がなによりも大切だと知った。
きょうのあなたの言葉
「・・・・・」 by医者
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