2011/06/01

幸せは手の中の温かい銃

隣にいる夫の寝息を聞きながら、暗闇に目を慣らしていた。

時計の針が午前2時を指し、女はベットからするりと降りた。

夫の安らかな寝顔を眺める。

女はクローゼットまで静かに歩き、自分の下着入れを探った。

奥のほうから回転式拳銃エンフィールドNo.2と弾丸の小箱を取り出した。

名探偵ホームズのワトソンも使っていた扱いやすい銃だ。

小箱を開き、エンフィールドの弾倉に開けられた6つの空白の1つを弾丸で埋めた。

そして、左手で弾倉をカラカラと何度も回転させながら夫の枕元まで歩いた。

銃口を夫に向け、撃鉄を起こす。

呼吸が乱れることも手が震えることもなく、汗ひとつかかなかった。

ここまでの作業はスムーズに運ばれ、あとは目を閉じて神に祈るだけだった。

淡い月の光が、女のほっそりとした横顔を照らし出す。

息を吐きながら、人差し指に力を入れた。

しばらくしてから女は目を開いた。

望んでいた音は響かず、撃鉄は空白を叩いただけだった。

冷たいままのエンフィールドから弾丸を抜き、下着入れの中に眠らせた。

女は眠ることができなかった。

翌朝、夫はトーストをかじりながら浮かない顔をしていた。

「どうかしたの?」

「いや、俺が見るたびに山羊座が12位な気がしてさぁ・・・」

「大丈夫よ、あなた、今日もツイてるから。」

結婚してから1096日が経過していた。

2 件のコメント:

  1. 私の姉は5年目にしてようやく撃てたようです。

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  2. 妻は夫を脅かす切り札を隠し持っていると思います。

    カバンの中、携帯電話の中、引き出しの中、エプロンのポケットの中、カメラのフィルムの中に。

    夫はいつ突きつけられるかわからないその切り札に震えながらも酒を飲みねむる悲しい生き物なので末永く大切にしてあげてくださいな。

    (きのした)

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